Kさんと初めて出会ったのは、
去年の春だ。

春。
あたしは仕事を辞め、
派遣社員になった。
派遣社員として、
初めて派遣された会社の社員のひとり、
それがKさんだった。
 
 
はじめ、Kさんとは席が離れていたし、
仕事のかかわりもほとんどなかった。
だから、あたしは彼の名前すら覚えていなかった。
 
名前を覚えたのは、初めて食事に誘われたあとだ。
派遣されて2週間くらい経ったころだった。
たぶん、まともに言葉を交わしたのも、その時が初めてだったと思う。
 
 
当時、あたしには彼氏がいたし、
16歳も年の離れたひとを『恋愛対象』として意識していなかった。

だから、ついて行かなかったし、
その後も、とくに喋ったりすることもなく、働いてた。

ただ、恋愛感情とはまったく違うけれど、
「この人は、どういう人なんだろう」
そう思うようになった。

もともと派手な業界だったから、
誘ってきたのはKさんだけじゃなかったけれど、
今思えば、少しでも気にしたのは、Kさんくらいだったと思う。
理由は思いつかない。
 
 
そのあと、また誘われた。
食事にいくのが嫌だというわけではなかったけれど、
あたしはいつも冗談として笑って流してきた。
 
 
食事に行ったのは、彼氏と別れたすぐあとだ。

雨の日の朝、珍しくKさんと会社の前で会った。
少し前にいたKさんは、歩みを遅め、あたしの隣にきた。

「食事に行くのは、難しそう?」

あたしは、咄嗟に「そんなことないですけど・・・・・・」と答えていた。
 
 
 
食事に行った日のことは、今でもよく覚えている。
お酒をたくさん飲んで、したたかに酔ってはいたけれど、
言葉のひとつひとつや、場面の一片一片も、思い出すことができる。
 
 
Kさんを受け入れたのは、あたしがかるい女だったからだ。
 
 
あのとき、Kさんの携帯がなってた。

「電話、でないくていいの?」

「いいよ。おうちの人だから」

Kさんはそういって、あたしにキスした。
あたしは、たぶん抵抗しなかったと思う。
 
 
 
始めのうち、あたしは恋愛対象として
Kさんのことが好きだったわけじゃないと思う。
あたしよりずっと大人な男性に『エスコート』されるデートが
楽しかっただけだと思う。
Kさんを受け入れるのは、そのデートの代価だった。
 
 
でも、いつの間にか、一緒にいるのが心地よくなってた。
抱きしめられれば、それだけで嬉しいと思うようになってた。

冷静な頭で「はまらないように」と思っている一方、
「愛されたい」と思う自分がいた。
 
 
 
だから、あたしは、本当は喜びたかったんだと思う。
赤ちゃんができたことを喜び、Kさんにも喜んでほしかったんだと思う。
お腹のあかちゃんも、あたしのことも、
「愛しい」と思ってほしかったんだと思う。

そして、もしそれができないのであれば、
何の期待も持てないくらいに、厳しく固く拒絶してほしかったんだと思う。
 
 
 
だけど、Kさんの反応は違った。

「嬉しい」なんて、そんな建前みたいな言葉は要らなかった。
産めないのなら、「おろせ」という冷たい言葉だけでよかった。
そうすれば、諦めがついたかもしれないのに。

おなかのあかちゃんを、「愛しい」と思ったりしなかったのに。

期待なんかしなかったのに。

コメント

nophoto
ニックネーム無し
2007年1月31日11:17

このページにどうやって辿り着いたのか分かりません。
でも・・・私も同じ思いをした一人です。
聞かせてください・・・。
本当に、彼の子供を産みたくないのでしょうか?
その彼の事を愛していないのでしょうか・・・?
子供を育てる事は簡単な事ではないと思います。ですが、産むつもりもない赤ちゃんに、『愛しい』と思うでしょうか。
よく考えてください・・・。
子供は簡単には育てられません。でも・・・それよりもなによりもあなた自身の気持ちを、本当の気持ちを大切にして下さい。

こはる
こはる
2007年1月31日15:11

お返事ありがとう。
気になってまたお邪魔してしまいました。
心が痛く、チクチクします。
現実の世界で誰にも言えない事、少しは吐き出して楽になってください。ほんの少しでも。

オムニア
オムニア
2007年1月31日23:24

**ニックネーム無しさん**
あなたも、同じ経験をされているのですね。
正直言って、あたしは未だに自分がどうしたかったのか、
本当の気持ちがわかりません。
産みたかったのか、産みたくなかったのか。
答えられません。
ただ、お腹にいたあかちゃんのことを『愛しい』と思っていたのは本当です。
彼とあたしの関係では、子供を持つことはできない、と
そう現実をみて思っていました。
でも、思考とは別に、気持ちは「お母さん」になっていたんです。
だから、あかちゃんがいるのが、嬉しくて、愛しかったんです。
 
 
**こはるさん**
ありがとうございます。
ここでは、ひとつの出来事を整理し、つづるだけではなく、
自分の気持ちを思うままに残そうと思います。

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