泣きつかれて、ただ呆然としてた深夜、
突然電話が鳴った。

Kさんからだった。

「今から行くから。あと5分くらいで着く」

あたしは泣きはらした顔で彼を迎えた。
彼は、着くなりぎゅうとあたしを抱きしめた。

「あかちゃん、できてたんだ」

あたしはただ俯いてた。

「いつ分かったの?」

「昨日。
 昨日、妊娠検査薬使って・・・・・・陽性がでて・・・・・・
 それで、今日病院へ行ったの」
「昨日、分かったときには教えてくれなかったんだね」
「だって、信じられなかったし、
 もしかしたら間違いかもって思ったし。
 そうであってほしいっていう気持ちもあったから・・・・・・」

「エコー写真をとってもらって、
 お医者さんに『妊娠してる』って言われるまで、
 信じられなかったから・・・・・・」

「そう。お医者さんはなんて言ってた?」
「今、1.3cmくらいだって。順調に育ってる、って・・・・・・」

「どうするか聞かれたの?」
「うん・・・・・」
「オムニアは、なんて言ったの?」
「『産めないと思います』って・・・・・・」
「お医者さんは何か言った?」
「ううん。何もつっこまれなかった。
 でも、中絶するなら、早く病院に行ったほうが良いって」

テーブルの上に置いた紹介状を、彼はじっと見つめてた。

何を思ってるんだろう、と思った。
面倒なことになったと思っているんだろうか。
直接見聞きしたことではないから、実感が湧かないのだろうか。
あたしの狂言だと思っているのではないだろうか。
不安ばっかりだ。
 
 
「そうか」
Kさんはぎゅうと抱きしめてきた。

「ごめん。ひとりで病院に行かせて、嫌な思いさせたね」

また涙がこみ上げてきた。
泣き声をかみ殺しても、涙がぼろぼろこぼれた。

「嫌な思いなんてしてない。
 だって、赤ちゃんがほしいなんて思ったことなかったし・・・・・・
Kさん、結婚してるから、産めないっていうのも分かってたし・・・・・・
でも、『中絶』の話をしたとき、すごく、すごく悲しかった・・・・・・・」

 
話し合いなんて、やっぱりあってないようなもので。
沈黙がほとんど。

Kさんは、「ごめん」をたくさん言った。

人前で泣くのは悔しかったけど、あたしは、たくさん泣いた。

妊娠したと聞いたとき、嬉しかった、と彼は言った。
あたしには、それが建前であるとしか思えなかった。
 
 
 
「本当に申し訳ないけれど、
 今すぐ奥さんと離婚して・・・・・・っていうのは、できない」

最終的に、彼はそう言った。

わかりきってたのに、またお腹がズキ、とした。

「・・・・・・わかってます」

「『産む』っていうのは、『結婚する』っていうことだもんね・・・・・・」
「・・・・・・」
 
「本当にごめん」

抱きしめられて、肩の上にぼろぼろ涙をこぼした。
 
 
結婚できないことが悲しいわけじゃない。
産めないっていうのも、本当にわかりきっていたこと。
 
 
でも、『中絶』っていう言葉を想像しただけで、
悲しくって涙がとまらなくなってた。 

日曜日、二人で病院に行こうと決めた。

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